次世代型裏山の条件を考えてみるよ
「4月になったら私も裏山よ」と彼女は言った。
骸骨山には防空壕跡がある。 公園から少し裏山を登った所に、縦約5メートル、横約10メートル、深さ約3メートル弱の直方体の形をした穴が空いている。 むき出しのそれは、秋になると枯葉が積もり、小学生の頃から良い遊び場だった。 しかしあまり知られていないが、骸骨山にはもう1つ防空壕がある。 外側の道路に面した所に、子供でも這わないと入れないような横長の穴が空いている。 皆、その穴の存在は知っているが、それが防空壕跡だとは知らない。 僕の家は代々その辺りに住んでいたので、祖母がそう教えてくれた。 『崩れたら危ないから入ったらあかんよ…。』
と祖母はよく言っていた。だが大人が入るには狭すぎる穴、僕らはそれが防空壕跡だなんて全く信じていなかった。
小学生のやんちゃな時期だ。 僕はどうしてもその穴が気になって、時の友人と懐中電灯を用意して腹這いになって入ってみる事にした。 その洞窟は一人ずつしか入れないような大きさだったので、友人を入口に待たせて僕が先に入った。 中は真っ暗で湿気っていて、ピョンピョンと跳び跳ねる虫(たぶん松虫)が気持ち悪かった。 照らされた内部は段ボールの破片が散らばっていてそれほど奥行きは無かった。 すぐに行き止まりだと思えたが、一番奥の壁、右側に真っ暗い闇が見えた。 穴だ。 まだ続きがあったのだ。とりあえず穴の前まで行って中を照らしてみた。 それは通路というよりは、少し深い窪みだった。そこに信じられない物があった。 小さめの黒い仏壇だ。 それがそこに立っていた。 誰がどうやって入れたのかわからない…。 入口はとてもじゃないがそんなもの入れられるような広さはない。 その仏壇には途中で消えたであろう半分くらいの蝋燭、線香の束、そして白黒の老人の遺影…。 小学生だった僕は悲鳴をあげて土壁に頭を擦りながら逃げだした。 慌てて這って逃げたので、後からズボンから、泥や虫がわさわさ出てきて、道路がかなり汚れた。 汚ない物を見る目で少し離れた所で下田が、 『はよ公園の水で洗え!』 と言い僕は公園の水場でパンツまで脱いで洗った…。 とにかく虫が気持ち悪かった。
下田に何を見たかを話した。 意外にも下田は馬鹿にする事はなかった。 『お前のその格好みたらわかる…』と僕が見た物を肯定してくれた…。 思えばこの時ぐらいから下田と仲良くなり始めたのかも知れない…。 帰ってから祖母に話を聞いてみた。 すると骸骨山は元々戦時中、病院だった事から、病院にあった仏壇が埋まっていたのではないか?と言われた。 そうなのかも知れない…とその時は納得したが今は違う。 小学生だった僕はあるはずのない所にあった仏壇、そして遺影の不気味さという恐怖で逃げ出したのだが、僕の記憶には未だに脳裏に焼き付いて離れない物がある。 あそこにはもっともっと信じられない物があった…。 僕も最近これを書いていて思い出した事なので、記憶違いかも知れない…。だが 遺影の写真の両脇に白い花があったのだ! まだ枯れきっていない花だ。 つまり誰かが当時、備えていたという事だ…。 誰があんな所に参るというのだ? 祖母の言う通り、そこは本当に防空壕で、遺影の人物はそれに縁のある人物でどうしてもそこに仏壇を置きたい意味でもあったのだろうか?
結局真相はわからないが、あの時帰ってから、ズルズル泥まみれのびしょびしょの服で帰った僕はまずその事で母親にこっぴどく叱られ、そして防空壕に入った事もバレて叱られ、派手に泣かされた事だけは真実で間違いない…。