元気ハツラツテロ
しばらくすると、辺りはうす暗い光だけの世界になっていた。 だが、テリーは真亜子を信頼したらしく、初めと同じような様子で、真剣な顔をしたまま、真亜子の手を優しく包み、そのまま立ちずさんでいる。
「マーちゃん、遅れてごめん。 今、恭也がマーちゃんの大切な人を連れてくるからね。」
見れば、そこにはホテルに言っていたはずの娘が、怒ったような顔をして恭也を睨んでいる。
「典ちゃん、無事だったの。良かったわ。あのねえ、全くの偶然だけど ,この人たち、岡崎の知り合いなの。 何かわけがあって、この人を探していたらしいの。」
「ふーん、よくわからないけど、ホテルから病院へ戻ろうとしていたら、いきなり車の前に人が飛び出して,運転していたビルは引き釣り下ろされ、私に「逃げろ」と言ったから、私はその通りに車から逃げ・・・ 泥棒かと思ったけど、考えてみれば、私はクリーニング済の衣料の入った袋しか持っていなかったから、泥棒が狙うはずはないか、と考え直 して、しばらく様子を見てみよう、としていたの。 そんな時に、この二人が来たの。 ママ、大丈夫・・・ ここも普通ではないみたいね。 私達、これからどうなるんだろうね。」
「うん、よくわからないけど、今のイギリスは移民、難民が多くなりすぎて、別に来てくれ、と言われたわけじゃあないけど、勝手に来て、生活が不満だと言って、テロに走る輩がいるみたいね。 まあ、なんにしても警察官も大変だと思うわ。 それに、ここにいるこの美少年も、そのうち、警察に捕まっている父親たちを脱獄させようと思っているみたいなの。 まあ、それについては、私の幼馴染やにわか親戚にあたる、この徳井恭也が話してくれるんじゃあないかなあ。 小屋君、そうでしょ。」
「うん、まあ、大体はそんなところだよ。 マーちゃんは相変わらずだね。 神戸へ行ったまではわかっていたけど、今の暮らしは全く分からないよ。だけど、まさかエジンバラで会うとは思わなかった。 手術がどうのこうのと言っていたけど・・・ マーちゃんの状況、話してくれないかなあ。 あ、僕はね高校までは一緒だったけど、その後、東京へ行ったんだ。 僕の兄が真一さんに憧れていて・・・ 彼は当時、東京大学へ行っていたんだ。だから、兄は慌てて同じところを、と思って、とにかく、東京の大学を目指したんだ。 ああ、スタートが遅かったから日本大学の土木課だったけど、兄はそれで十分だったんだ。 まあ、うちの家業が土木関係だったから、父は大喜びをして・・・ 僕と兄は2歳差で、兄を見ていたから、早くから受験勉強を始めていたから、僕は早稲田に入れた。 ああ、そうだよ。僕と兄は東京で大学生生活を満喫していた。 うん、うちの家業が潰れるまでは楽しい暮らしだったよ。」
「ふーん、小屋君とこも潰れたの。」
「うん、うちの父は宇野新のおじさんとは違って,心が優しすぎたんだ。 だから、それからは、床に就くことが多くなり・・・ 兄はすぐに家に帰ることを言いだした。 だけど、僕は経済の勉強が、楽しくなっていたから、兄のように,大学をやめて家に帰りたくはなかった。だから、何となく心が決めらないまま、休学の手続きをして、岡崎へ戻ったんだよ。 そしたら、父は市民病院へ入院していて、兄は家業を引き継ぐように、仕事に振り回されていた。 僕は、ただ父の傍で、あんなに忙しかった家業が、どうして傾いたのか、って帳簿などを調べていたんだよ。 そんな時に宇野新さんも潰れた、と言うことを知ったんだ。 だけど、まあちゃんとこのおじさんは
同じように潰れて、店も人手に渡ったというのにひょうきんな態度で・・・ 病院へ見舞いに来てくれていたのも、おじさんだけだった。 」
「何、言ってくれてるのよ。 うちだって大変だったのよ。 まあ、私は確かに、二十歳を過ぎた頃に結婚して、神戸に来ていたけど、初めから盆休みとか正月休みとかは嫌いだったよ。 ゆっくり帰るような家がないような気がして・・・ 兄弟は多い、と思っていたけど、4女は息子が中学生の時、死んでいるし、私が嫌いだった妹も、息子はうちの娘と同じような年齢だけど、
どうも体調が悪いらしく、どこかで入院しているみたい。 大体、私が一番好きだった兄も、姿が見えないままだし・・・ ひょっとしたら、小屋君、知っているんじゃあない。」
「うん、ごめん。 マーちゃんが探していることは知っていたけど・・・ おじさんは、真亜子が傍にいれば真一の思考回路が、まともには動かなくなるから,利、お前は黙っていろ、と、言われていたんだ。 だけど、真一さんは、マーちゃんが生れた時からの兄さんで、マーちゃんの事をとても気にしていたんだよ。 マーちゃんが生れた時、泣かなかった、って、とても気にしていた。 だから、兄が死んで、父も死んだとき、真一さんが、僕に医術を学べ,といった。 早稲田を休学していたけど、まだ有効だったんだ。 だから必死で頑張ったよ。 ちょっと遅いスタートだったけど、死に物狂いで頑張れば、何とかなった。 それに、真一さんはとても顔が広く、早稲田の医学部の教授を紹介してくれたから進めたんだ。 後で知ったけど、この恭也君も真一さんの引いたレールの上を・・・ そう、早稲田で経済と法律を学んでいたけど、真一さんの勧めで、東大へ行き、修士まで学んでいたんだ。 実家は木曽、昔から、うちの中では宇野新の新吉さんは木曽に山を所有している、言うことはだったけど、真一さんが生れたのも
木曽の山中、だけど、マーちゃんは岡崎の元能見で生まれたんだよ。そう、生んだお母さんは、その時に亡くなったらしい。 新吉爺さんが、うちに来て、そういう話をよくしていたらしいよ。 マーちゃんはおじいさんとおばあさん、それと真一さんと暮らしていたんでしょう。」
「ふーん、小屋君は私の事、よくしっている感じだわ。」
「うん、今、僕は真一さんの弟分みたいなものだから、この恭也君とも・・・、 だから、こうして一緒に行動しているんだよ。」